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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)347号 判決 2000年7月04日

原告

被告

特許庁長官B

指定代理人

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

「特許庁が平成10年審判第19064号事件について平成11年8月17日にした審決を取り消す。」との判決。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

Fは、平成6年8月12日、名称を「和服およびお端折り形成ベルト」(後に「和服」と補正)とする発明(本願発明)につき、特許出願(平成6年特許願第211920号)をしたが、平成10年11月10日拒絶査定を受けたので、平成10年12月9日審判を請求し、平成10年審判第19064号事件として審理された結果、平成11年8月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成11年9月29日Fに送達された。原告は、平成11年10月25日Fから本願発明についての特許を受ける権利を譲り受け、平成11年10月27日その旨特許庁長官に届け出た。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載。「取り付け」の仮名遣いを公用文の方式に改めた。)

(1)  和服用コート状に形成された和服本体と、この和服本体の襟の両下端部寄りの外側面に取り付けられた結び用紐と、前記和服本体の一方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の内側面に取り付けられ前記結び用紐と結ばれる一方の紐と、前記和服本体の他方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の内外側面に取り付けられ該近傍部位に形成された透孔より外方に出すことができ前記結び用紐と結ばれる他方の紐と、和服を着た場合のお端折り部位に位置する前記和服本体の外周部を覆うように取り付けることができる和服本体でお端折りを形成した状態と同様な縫い付け部が位置するように縫い付け形成されたお端折り形成ベルト本体、このお端折り形成ベルト本体の上部に縫着固定されたベルト、このベルトの両端部寄りの外側面と内側面に縫着固定された取付け用の面ファスナー、あるいは該ベルトの両端部より外方に突出された取付け用の紐とからなるお端折り形成ベルトとを備えることを特徴とする和服。

(2)  和服用コート状に形成された和服本体と、この和服本体の襟の両下端部寄りの外側面に取り付けられた結び用紐と、前記和服本体の一方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の内側面に取り付けられ前記結び用紐と結ばれる一方の紐と、前記和服本体の他方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の外側面に取り付けられ前記結び用紐と結ばれる他方の紐と、和服を着た場合のお端折り部位に位置する前記和服本体の外周部を覆うように取り付けることができるお端折り形成ベルトとを備えることを特徴とする和服。

(3)  和服用コート状に形成された和服本体と、この和服本体の襟の両下端部寄りの外側面に取り付けられた一方の取付け具と、前記和服本体の一方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の内側面に取り付けられ前記一方の取付け具と取り付けられる他方の内側取付け具と、前記和服本体の他方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の外側面に取り付けられ、あるいは内外側面に取り付けられ該近傍部位に形成された透孔より外方に出すことができる前記一方の取付け具と取り付けられる他方の外側取付け具と、和服を着た場合のお端折り部位に位置する前記和服本体の外周部を覆うように取り付けることができるお端折り形成ベルトとを備えることを特徴とする和服。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の請求項2に係る発明(本願発明2)の要旨

前項の(2)のとおりと認められる。

(2)  引用例記載の発明

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-113807号公報(引用例1)、実願昭63-149041号(実開平2-69912号)のマイクロフィルム(引用例2)、実願昭49-101554号(実開昭51-28209号)のマイクロフィルム(引用例3)には以下の点が記載されている。

◇ 引用例1

a) 「着丈(対丈)の着物を着て、おはしょりの位置におはしょりベルトをつけて着附けをすれば大変かんたんに着附けも出来、附け帯にしますと・・・一人で着附けが出来ます」(1頁左欄15~19行)

b) 「おはしょりベルトとは、ベルト(1)に着附けをした時のおはしょり(2)をつけたものである」(1頁左欄24~25行、第1図参照)

◇ 引用例2

a) 「第3~4図は婦人用長着を示し、はだけ防止用紐は下前身頃(1)の衿前端と左脇縫のほぼウエスト部(6)に縫着してあり、・・・第5~6図は乳・幼児用長着を示し、下前身頃の衿前端と左身八ツ口(7)の後身頃(8)側のほぼウエスト部にそれぞれはだけ防止用紐を縫着し、上前身頃(9)の衿前端(10)と右身八ツ口(11)の後身頃側のほぼウエスト部に結び紐(12)をそれぞれ縫着してある。」(3頁17行~4頁7行、第4図・第6図参照)

◇ 引用例3

a) 「上衣(1)および下衣(2)と調和連繋する如く、衿(4)および脇縫・背縫等の縫目(5)を附設した帯状生地(3)の下辺を裏面に折り曲げて二重接合辺(6)を形成すると共に、上縁の適当な部分にゴム紐(7)を附設し、且左右両縁上部の表裏対象位置に夫夫接着片(8)(8′)を縫着してなることを特徴とする「おはしょり」の構造。」(実用新案登録請求の範囲、第2図・第3図参照)

b) 「ワンピースに本考案にかかる「おはしょり」を用いる場合には、その分だけ生地の節約にもなるし着付けが容易となる。」(4頁14~16行)

(3)  審決のした対比

本願発明2は、①和服用コートとして使用することができるとともに、部屋着や和服としても使用できる和服を提供すること、②誰でもが簡単に着て使用することができる和服を提供すること、を目的とするものである(【0004】の記載参照)。この目的を達成するための具体的構成は請求項2記載のとおりであるが、「和服用コート状に形成された」和服本体とは、必ずしもその構成が明確ではない。そこで明細書中の記載を参照して検討すると、和服本体は「お端折りを形成しないで着れるような長さに形成された」もの(【0009】の記載参照)、すなわち、着丈(対丈)の和服と認定することができる。そして、その作用は、和服用コートあるいは部屋着として使用する場合には、従来の和服用コートを着るように着て一方の紐(8)と対応する結び用紐(7)とを結ぶとともに、他方の紐(9)と対応する結び用紐(7)とを結んで使用し、和服として使用する場合には紐を結んで着付けた後、お端折り形成ベルトをお端折り部に取り付け、帯を取り付けるというものである(【0007】【0014】【0015】の記載参照)。

以上の点を踏まえて本願発明2と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「着丈(対丈)の着物」、「おはしょりベルト」はそれぞれ本願発明2の「和服本体」、「お端折り形成ベルト」に相当するから、両者は「着丈(対丈)の和服本体と、和服を着た場合のお端折り部位に位置する前記和服本体の外周を覆うお端折り形成ベルトとを備えることを特徴とする和服」である点で一致する。そして、(イ)引用例1記載の発明の着物本体が結び紐を備えていない点、(ロ)引用例1記載の発明のお端折り形成ベルトが取付手段を有していない点、(ハ)本願発明2では和服本体が和服用コートや部屋着や和服としての使用をも目的としているのに対し、引用例1記載の発明では和服の着用の容易性のみを目的としている点、で相違する。

(4)  相違点(イ)についてした審決の検討

本願発明2は、襟の両下端部寄りの外側面に取り付けられた結び紐と、一方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の内側面に取り付けられた一方の紐と、他方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の外側面に取り付けられた他方の紐とを有するものである。ここで、紐の取付け位置は「襟の下端部寄り」、「前身頃と後身頃の取付け部近傍」及び「袖の下部寄り」とされている。しかし、いずれにおいても「寄り」、「近傍」と記載されているのであって、厳密にその位置を特定したものではなく、紐の取付け位置は着用に当たり都合の良いところと解することができる。そこで、本願発明2と引用例2記載の発明とを対比すると、引用例2記載の発明の第6図に示された乳・幼児用長着の実施例には、下前身頃の衿部及び左身八ツ口の後身頃側のウエスト部にはだけ防止用紐を、上前身頃の衿部及び右身八ツ口の後身頃側のウエスト部に結び紐を縫着することが記載されており、このはだけ防止用紐は第4図に示された婦人用長着の実施例にも適用されることが記載されている。さらに、この実施例においては該紐を、左脇縫いのところに縫着すること、第4図を参照すると衿の外側面に縫着することが記載されている(前記引用例2のa)の記載参照)。してみると、両者は和服本体において「襟の両下端部寄りの外側面に取り付けられた結び用紐と、和服の一方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の内側面に取り付けられ前記結び用紐と結ばれる一方の紐と、和服の他方の袖の下部寄りの部位に位置する前身頃と後身頃の取付け部近傍の外側面に取り付けられ前記結び用紐と結ばれる他方の紐」を備えることで一致する。そして、この結び紐を同じ和服である引用例1記載の発明に適用することに格別の困難性があるとはいえず、また、総和以上の効果を奏するとも認められない。

(5)  相違点(ロ)についてした審決の検討

和服本体とお端折り形成ベルトとを別体で構成したものにおいて、お端折り形成ベルトに取付手段を設けることは引用例3に記載されている。そして、この取付手段を引用文献1記載の発明のおはしょりベルトに適用することに格別の困難性があるとはいえず、総和以上の効果を奏するとも認められない。

(6)  相違点(ハ)についてした審決の検討

本願発明2は和服本体を和服用コートや部屋着や和服として使用することを目的の一つとしている。しかし、その構成は引用例1~3記載のものを組み合わせることによって得られるものであることは前述のとおりである。そして、一つの衣服を複数用途に兼用することは従来一般に行われていることであり、和服を和服用コートや部屋着や和服として使用することは当業者ならば必要に応じて容易に想到し得る事項である。

(7)  審決のむすび

したがって、本願発明2は引用例1~3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(相違点(ハ)についてした判断の誤り)

(1)  審決の相違点(ハ)についての判断は、「一つの衣服を複数用途に兼用することは従来一般に行われている」ことを前提としている。

「外出用のシャツを部屋着としても着る」考え、「厚手のシャツを上着としても着る」考え、「表裏兼用で着る」考え、「袖やフード等を付けたり外したりして着る」考え等は周知の事実であることは認めるが、「一枚の衣服を目的の異なる3つの用途に着分ける」という考えは存在しないので、かかる考えは周知の事項ではない。

本願発明2は「一枚の衣服を目的の異なる3つの用途に着分ける」という考えに基づいた構成であるから、かかる考えが周知の事実であるならば、かかる事実について更に言及する必要があり、「一つの衣服を複数用途に兼用する考えは従来一般に行われている」との概略的な周知の事実に基づいた進歩性の判断は誤りである。

(2)  被告提出の乙第1~第5号証によって、衣服の分野において一つの衣服を三つ以上の用途に兼用する考えが存在することは認める。しかしながら、乙第1~第5号証は、一つの衣服を三つ以上の用途に兼用する考えではあるが、いずれも一つの衣服を複数用途に応じて変形させて着用するものであって、本願発明2のように、一枚をそのままの形態で三様に兼用する考えが示されたものではない。

2  取消事由2(本願発明2についてのみ判断し他の請求項の発明について判断を遺脱した違法)

(1)  従前の特許庁の審判の審理では、複数個の請求項があるものについて、そのうちの一請求項が登録要件を満たさないと判断される場合には、拒絶理由の通知あるいは電話による連絡をするのが一般的なのに、本件審判においては、このような対応は一切されないまま審決に至っている。

本件審判請求時に請求項の数に乗じた額の手数料を納めて請求している以上、請求項1及び3について一言も言及さえしない審理の在り方は、審判請求費用との関係においては、一般社会常識では詐欺的な費用徴収行為に該当し、かかる行為は公的機関である特許庁が暗黙の要件として許されるべきではない。

(2)  本件出願で拒絶査定の対象となった請求項は請求項1,2及び3のすべてなので、査定不服の審判を請求する場合は、請求項を削除する補正や、分割出願をする等の権利を保全するための措置はとり得ない。

拒絶査定謄本に記載された内容を吟味し、請求項の削除等の措置をとるのが理論上可能であったとしても、本件審判請求においては、当該拒絶査定の内容自体に承服できず、あくまで本件出願がそのまま登録になることを前提としているので、上記の措置まで審判請求の際に期待するのは余りにも酷である。

(3)  以上のとおり、請求項1及び3に関する手続は、「発明の保護」という特許法1条の法目的から逸脱しており、違法である。

第4審決取消事由に対する被告の反論

1  取消事由1について

(1)  次のとおり、一つの衣服を三つ以上の用途に兼用することが従来一般に行われていた。

すなわち、一つの衣服を、①スカート、ブラウス、ネッカチーフ、スカーフに(実開昭50-40410号公報。乙第1号証)、②ペティコート、ブラウス、スカート、ワンピースに(実開昭60-93708号公報。乙第2号証)、③スカート、ワンピース、キャミソールドレスに(実開昭55-22357号公報。乙第3号証)、④洋服下衣、着物下衣、もんぺに(実開昭63-42113号公報。乙第4号証)、⑤防寒・装飾ショール、洋装ベルト、帯、和装用ショールに(実開昭59-149907号公報。乙第5号証)、兼用する例がある。

(2)  そもそも、引用例1の着丈の着物がおはしょりベルトを組み合わせず、それ自体で長着として着用できることは、引用例2に着丈の着物単独のものが示されていることから明らかであるが、和服用コートが着丈の着物と基本構成が共通していることも当業者のよく知るところであり(日本服飾史辞典231頁。乙第6号証)、引用例1の着丈の着物とおはしょりベルトの組み合わせ衣服を本件のように三様に着用しようとすることは、上記のとおり、衣服を何通りにも活用しようとすることが周知であることからすれば、当業者が容易に想起することである。

(3)  審決の「一つの衣服を複数用途に兼用することは従来一般に行われていることであり、和服を和服用コートや部屋着や和服として使用することは当業者であるならば必要に応じて容易に想到し得る事項である。」との判断は上記趣旨である。

2  取消事由2について

特許法37条においては、二以上の発明であっても、一の請求項に記載される発明(特定発明)に対し、同条各号に掲げる関係を有する発明については、特定発明と同一の願書で特許出願をすることができるとする(いわゆる多項出願に関する規定)。また、同法49条においては、「……特許出願が次の各号の一に該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。……」と定めている。

したがって、同法37条の規定による多項出願は、一個の特許出願中に二以上の発明が包含されているというにすぎないもの、すなわち、二つ以上の発明が一体となった一個の出願にすぎないものであって、二つ以上の発明を一体として取り扱わなければならないものと解されるから、一つの発明について拒絶の理由があるときは、その余の発明について拒絶の理由があるか否かにかかわらず、審査官、審判官は、同法49条の規定により出願を拒絶すべきである。

本件出願については、請求項2に係る発明に拒絶の理由があり、原査定が妥当であって、審判請求に理由があるとすることができないから、審判官は、原告に対し、本願請求項1及び3に係る発明について拒絶の理由を通知し、意見書提出の機会及び明細書について補正の機会等を与える必要はなく、また、審決において本願請求項1及び3に係る発明に対し言及していなくても、審理が不適正ということにはならない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1について

(1)  衣服の分野において一つの衣服を三つ以上の用途に兼用する考えが存在する以上、和服の分野においても同様の考えを採用しようとすることは当業者が普通に考えることとして、自明のことと認められる。

ちなみに、乙第1号証(実開昭50-40410号公報)によれば、一つの衣服をスカート、ブラウス、ネッカチーフ、スカーフに兼用することが、乙第2号証(実開昭60-93708号公報)によれば、一つの衣服をペティコート、ブラウス、スカート、ワンピースに兼用することが、乙第3号証(実開昭55-22357号公報)によれば、一つの衣服をスカート、ワンピース、キャミソールドレスに兼用することが、乙第4号証(実開昭63-42113号公報)によれば、一つの衣服を洋服下衣、着物下衣、もんぺに兼用することが、乙第5号証(実開昭59-149907号公報)によれば、一つの衣服を防寒・装飾ショール、洋装ベルト、帯、和装用ショールに兼用する例が掲げられていることが認められる。

(2)  そして、甲第9号証によれば、引用例1の発明の詳細な説明に、「 従来着物は、おはしょりのある長着ですので、着物を着るに大変めんどうな欠点がありますが、最近デザイナー達は普段着等は着丈(対丈)にして着やすい着物を発表していますが、着丈で着る人はあまりいませんし、礼装にはおはしょりのある着物にするようです。

着丈(対丈)の着物を着て、おはしょりの位置におはしょりベルトをつけて着附けをすれば大変かんたんに着附けも出来、附け帯にしますと美容院に出かけて着附けをしてもらわなくても一人で着附けが出来ますし、時間とお金の節約にもなります。

普段着にも礼装用にも使用出来、着物を着る時の帯の下にするだて巻きのかわりにもなり大変便利だとおもいます。」

との記載があることが認められ、そこには、着丈の着物がおはしょりベルトをつけることにより礼装用として使用され、おはしょりベルトを外すことにより普段着として使用されることの記載があるから、引用例1には、一枚の着丈の着物を変形させずに普段着と礼装用に兼用する考えが示されているといえる。

取消事由1は、「一枚の衣服を目的の異なる3つの用途に着分ける」という考えが周知の事項ではないことを前提とし、本願発明2のように、一枚の衣服をそのままの形態で三様に兼用する周知例はないとするが、上記説示によれば、原告の主張は理由がない。したがって、「一つの衣服を複数用途に兼用する考えは従来一般に行われていること」を前提にしてした相違点(ハ)に関する審決の判断に、原告主張の誤りがあるとはいえない。

2  取消事由2について

特許法37条は、二以上の発明であっても、一の請求項に記載される発明(特定発明)に対し、同条各号に掲げる関係を有する発明について特定発明と同一の願書で特許出願をすることができるとして、いわゆる多項出願を認めているが、本件出願もこの規定に従ったものである。

同条の規定による特許出願は、二以上の発明を包含するが、同条各号所定の関連性があることから、これら二以上の発明を一体のものとして取り扱うこととした一個の特許出願であると解され、この出願においても、「……特許出願が次の各号の一に該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。……」と定める同法49条の規定が適用されるので、二以上の発明のうち一の発明について拒絶の理由があるときは、その余の発明について拒絶の理由があるか否かにかかわらず、一体として出願を拒絶すべきものとされていることが明らかである。

本件出願においては、平成10年11月10日付け拒絶査定で本願発明の各請求項の発明に関する拒絶理由が示され(甲第6号証)、審決も、本願発明2についてはこの拒絶理由と同様の引用例により特許を受けることができないと判断しており、この判断に原告主張の誤りはない以上、他の請求項の発明につき判断するまでもなく、また改めて拒絶理由の通知をするまでもなく、拒絶査定は維持されるべきものである。審決が、本願発明2につき特許を受けることができない理由を示して判断している以上、本願発明の他の請求項の発明について判断を示すことなく審判請求は成り立たないとの結論に至った点について、原告主張の違法があったということはできない。

原告は、本件審判請求時に請求項の数に乗じた額の手数料を納めて請求していることは上記判断と矛盾する旨主張するが、この点(特許法別表(195条関係)の13における審判請求時の手数料額の算定)は手数料算定についての立法政策に帰着し、上記判断を左右するものではない。

その他、原告が取消事由2で主張するところも、出願人である原告の審判請求における対応について述べるものにすぎず、これらの点をもってしても、審決に手続上の違法があったということはできず、取消事由2も理由がない。

第6結論

以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)

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